製造シミュレーション

製品開発でますます重要になる樹脂流動解析
「Moldflow」活用のポイントを紹介

ものづくりは開発スピードの向上とコスト削減の戦いである。オートデスクの樹脂流動解析ソフト「Moldflow」を製品・金型設計に活用すれば、開発プロセスの早い段階で最適化ができ、製品開発に威力を発揮する。2009 年 11 月 12 日に開催された「Autodesk University Japan 2009」の「製造シミュレーションクラス」では、シミュレーション技術の中の Moldflow の位置付けや、最新の製品情報、具体的な活用事例が紹介され、受講者は熱心に聞き入っていた。

最初に、「オートデスク CAE ソリューションの展開と次世代 Autodesk Moldflow について」と題して、米オートデスクのバイスプレジデントで、同社の製品部門を統括しているサミール ハナ氏がデジタルプロトタイピングのコンセプトをベースにオートデスクの製品群を紹介、続いて米オートデスクでシニアプロダクトマネージャを務めるヒルデ セブンス氏が「Moldfow」の製品戦略を語った。

米国オートデスク社
Samir Hanna(サミール ハナ)

米国オートデスク社
Hilde Sevens(ヒルデ セブンス)

デジタル プロトタイピングの一角を成す「Moldflow」

ハナ氏は、冒頭、市場環境について、「2008 年は世界中のどの会社も大変でしたが、ようやく光が見えてきました。その中で、われわれは競合他社に比べて急速な伸びを記録しています」とし、R&D にも積極的に投資をしているとした。コア・プロダクトとしては、「AutoCAD」「AutoCAD LT」「Inventor」などだが、「Moldflow」「Algor」などCAE 分野についても投資しており、その幅は広がっていると言う。
オートデスクは「デジタル プロトタイピング」を推進している。これはデジタル設計データを利用して、ものづくりのさまざまな場面で製品を仮想的にビジュアライゼーション(視覚化)し、シミュレーションすることで、事前に問題点を洗い出し、設計プロセス全体を効率化し、コストを削減する手法である。Moldflow を使えば、実際に製造に取り掛かる前の初期段階や、コンセプト段階から設計品質の確認が可能だ。
続いてセブンス氏が Moldflow の位置付けと今後の展開について語った。
Moldflow には二つの製品群がある。一つは「Autodesk Moldflow Advisor(AMA)」である。これは製品設計者や金型設計者に向けたものである。非常に使い勝手がよく、学習も簡単である。この製品を使えば、設計者は早い段階で成形が可能かどうかを確認することができる。もう一つは「Autodesk Moldflow Insight(AMI)」である。これは生産技術者や、CAE の専門家に向けた高度な機能を持つ製品である。様々な成形手法の解析が可能であり、プロセスの最適化、金型の最適化を進めることができる。
さらに、同社は 2009 年 9 月に「Autodesk Moldflow 2010 R2」を日本でリリースした。生産性、相互運用性、精度、スピードなどが向上した。メッシュの解析精度もさらに向上した。「まだ R2 にバージョンアップされていないお客様はできるだけ早く導入ください。その素晴らしさが分かると思います」(セブンス氏)。
今後の製品ロードマップの考え方としては、(1)使い勝手のよさでベストのものを出していくこと、(2)使用頻度の低いユーザーから毎日使っている先進的なユーザーまでカバーできるソフトウェアを出すこと、(3)保守契約の必要性についても、十分な価値をそこから見出せるようなものを提供していくこと、であるとした。

パナソニック電工株式会社
中田 公明 氏

課題を出して回答案を Moldflow で検証

次に、Moldflow でどのような解析ができるか、「樹脂流動解析を製品開発で活用しよう! その1」と題して、パナソニック電工の中田公明氏が講演した。中田氏は、樹脂シミュレーションの課題を受講者に出し、その場で回答してもらう、という形式で講演を進めた。中田氏と受講者の間はもちろん、受講者同士の親密度が高まり、講演内容の理解も深まったようだ。
最初に課題として出したのは、横長の矩形で右下に穴が一つある成形品の解析である。指定した領域内にウエルドラインを発生させるためのゲートの位置を質問した。会場内をグループ分けして議論し、選ばれた4 人が回答案を示した。それぞれの回答案について、Moldflow を使って充填パターンとウエルドラインの解析を行い、参加者の解答イメージとの差異を確認した。
次に、同じ横長の矩形で、今度は左右対称に二つ穴がある成形品について尋ねた。それぞれ穴の下の領域にウエルドラインできていいが、それ以外の領域にウエルドラインを発生させないため部分的な肉厚の検討が必須になるという課題である。条件としては、肉厚は 1mm 以上で自由に変化させてよいが、その他の寸法は図と同じにする。前の課題と同様に会場から 2 人が選ばれ回答案を示した。そして同様に、Moldflow を使って検証して見せた。
さらに、中田氏は厚みによって流れがどのように変わるかについて理論式と、Moldflow の解析を使って解説した。「冷却を伴う複雑な流れを頭で考えるのは困難なので Moldflow を使って確認をしましょう。しかし、設計案を考えるのは自分自身なので、冷却されながら流れる溶融樹脂の挙動を理解しておく必要があります」(中田氏)とし、設計者は基本的な点を抑えておことの大切さを語った。

株式会社 明輝
天野 克久 氏

解析結果を分析し新たなアイデアを創出

中田氏に続き、「樹脂流動解析を製品開発で活用しよう! その 2」と題して、明輝の天野克久氏が、流動解析を実務においてどのように活用しているのか、二つの事例を挙げて解説した。同社は家電・自動車向けを主体とした射出成形用金型の設計、製作を行っており、これまでに約1000 件の金型の解析をしてきた実績を持つ。
最初に紹介した解析例は「32 インチ液晶 TV バックカバー」である。成形品の特徴として放熱口がたくさんあり、右側にだけ開口がある。流動バランスをとるのが非常に難しい形状である。顧客の要望は、使用する成形機は最大 1050 トン・クラスまで、であった。
「この中でもっとも多くのお客様が気にするのが成形機のクラスです」(天野氏)。最初の計算で型締力は1015 トンとなったが、顧客からゲート位置が見た目にアンバランスなので左右対称でバランスのとれた位置に置くようにという要望がきた。顧客の要望のゲート位置にすると型締力は 1312 トンとなった。
Moldflow で充填完了時の圧力を見ると、樹脂の流れの悪い個所が分かった。そこで樹脂の流し方を検討、フローリーダーを設けて解析をした。しかし、型締力はさらに上昇した。フローリーダーを追加したことで流れのよくないエリアが別に移動していたからだ。今度は充填のよいところに着目し、流れが良すぎると部分を意図的に薄くすることによって、樹脂流れをコントロールした結果、型締力は大幅に下がり 850 トンの成形機でも対応可能になった。重量も初期モデルとほとんど変わらなかった。「流動解析を詳しく分析し、新しいアイデアを加えることで、従来行っている方法よりよりスマートに良い結果を得ることができました」(天野氏)。
さらに、顧客からウエルドラインが気になるという指摘があった。ウエルドラインを消すには充填パターンを改善する必要があるが、今回はバルブゲートを開くタイミングを調整することによってウエルドが消えるように対応した。
次に紹介した解析例は、「洗面用キャビネット」である。顧客の要望は、(1)目に見えるところにゲート跡があってはいけない、(2)ウエルドライン、エアトラップをなるべく目立たなくする、である。前回同様の製品の金型を作成して成形したところ、金型コアが成形中の樹脂圧で倒れてしまい、成形品の肉厚が変化し、反り変形をおこす原因となっていた。。
そこで Moldflow の「コアシフト解析」の機能を使って、コアの倒れ検討をおこなった。その結果、充填パターンをコントロールし、金型コアの倒れを抑制する事に成功し、反り変形も改善される方向になった。

最後に、天野氏は樹脂流動解析を活用する上での注意点として、「解析が有効だと分かってくると、解析すれば何でもできると考える人が出てきます。しかし、当然、解析ですべての問題を解決できるわけではありません」(天野氏)。解析結果を通して、他部署とのコミュニケーションの活性化や、様々な観点からの対策案の検討が必要不可欠であることを強調した。