Autodesk University Japan 2011
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Autodesk University Japan 2011 レポート

建設・土木・インフラ・設計・施工それぞれの立場で考える、サスティナブルで、メンテナンス性や効率性に優れたまちづくり

BIM導入後、プロポーザルの準備時間がわずか20%に

株式会社 ビム・アーキテクツ 山際 東 氏 山際 BIMによる生産性向上は、プロポーザルに応募するときの時間にはっきりと現れています。以前は提出物の作成まで含めて1カ月くらいかかっていたのが、BIMを使うと形状を決めるところから3Dで設計し、コンセプトも作り、ビジュアライゼーションの部分まで内製化して5~7日間で行えるようになりました。
プロセスも各設計者が同時並行的に行う「パラレル作業」と、一つのモデルに複数の設計者がワークセットを使って同時にアクセスして作業する「コラボレーション」に分け、効率化しました。模型を作る時間、提案の合意形成やパース作成にかかる時間が大幅に削減できたので、従来の20%の時間で提案が可能になりました。
9月初旬に開催されたBIMの仮想コンペ「Build Live Kobe 2011」に参加したときは、過去にない大規模な施設が設計課題であったにもかかわらず、異なる企業に属する約30人のメンバーでアプリケーション間の連携をうまく使って協働しました。
その結果、48時間という短時間にもかかわらず、これまでやったことのなかったインフラ関係の設計や気象情報に基づく解析、ライフサイクルコストのシミュレーションなどを行ってから建築のモデルを作成できました。これもBIMならではのことだと思います。

3Dプラットフォーム上に様々な地下構造物の情報を統合

中央復建コンサルタンツ株式会社 森 博昭 氏 森(博) 当社は建設コンサルタントなので、道路や橋梁などの土木構造物の設計が業務の中心です。土木の分野でも3D技術は少しずつ活用が進みつつあります。
3Dを調査・計画・設計・施工・維持管理の各プロセスで活用することと、これらの情報を共通の3Dモデル、つまり3Dプラットフォーム上で共有することが目標です。これにより事業プロセスは抜本的な改革が実現できるかもしれません。
その具体例を紹介しましょう。高野町では約5000個の建物を含め、全域を3Dモデル化として構築しました。屋根の形や建物の階数など、建物には様々な属性情報が入力されており、建物をクリックするとその情報が表示されます。3Dプラットフォームになる可能性があります。事業間・プロセス間・施設間の不整合リスクを低減できそうです。
また、兵庫県西宮土木事務所では、河川のアンダーパス事業に伴い、様々な事業者の埋設物や地下構造物の情報を一つの3Dモデルにまとめました。排水ポンプやボックスカルバート、既設ケーブルや下水管などを統合してモデル化することで、立体的に不整合性を確認できました。
3D技術の一番のメリットは一般の人にも分かりやすいこと、そして複雑な構造物でも空間的な把握が容易であることです。災害時など、いざというときにも必要な情報がすぐに取り出せるメリットもあるでしょう。さらにクラウドコンピューティングで運用することで、事務所が被災してもどこからでも必要な情報が取り出せるようになります。

大学病院の建設で、施主が示した「BIMへの期待」

一般社団法人 IAI日本 山下 純一 氏 山下 米国では2013年までに病院を地震時の防災拠点として整備するため、病院の建て替え計画が進んでいます。病院は設備も多く、BIMの活用も進んでいる分野です。今回、9万m2規模の北里大学の病院建設プロジェクトで、BIMを採用した理由は何ですか。

藤記 設計が始まった約2年前、BIMについてそれほど深く知っていたわけではありませんが、BIMを採用することにしました。設計がよくなる、メンテナンスにも使えるという可能性を感じたからです。ただ、設計対象が大きく、複雑で設備などの密度も高い建物なので、設計のどの段階まで、どの程度までBIMを使うのかが、一番、頭を悩ませました。
Revit Architectureを使うと覚悟を決めて、基本設計段階で工事を発注し、施工会社を決める段階になりました。そのとき、施主からBIMでプロジェクトを進めてほしいという要望が出てきました。BIMという言葉こそ使いませんでしたが、「3次元だとパースが見られて分かりやすい。今回もこの方法でやってくれないか」と、BIMに対する期待があったようです。
そこで、BIMでとことんやろうということになり、その意図にこたえてくれた施工者の竹中工務店やきんでん、トーネツの熱意のおかげで実現しました。BIMでプロジェクトを進めるのは建築設計事務所だけでは難しい。元請け会社や専門工事会社と一対になり、協働できたのが大きな力となりました。これは最近の米国における病院建設プロジェクトの進め方ともよく似ています。

山下 プロジェクトの基本設計は日建設計が担当し、実施設計は各社が共同で行ったということですか。するとかなり初期段階から、各社がチームを組んで進めたのでしょうか。

森(元) 設備会社もBIMでコラボレーションするのは初めてでした。そこで最初にBIMを使うための基本ルールを決めました。それはBIM対応の設備CADの最新版を使うことでした。施主、設計会社、ゼネコン、サブコンのベクトルがそろってこそ、BIMがうまく機能したと言えるでしょう。

BIMの「I」はどのように活用すべきか

山下 現在のBIMは3次元で建物の形状を表現できるが、課題は、「I」、つまり建物の情報(Information)がないことと言われます。その点はどうでしょう。

山際 われわれの事務所では壁一枚を入力する際も、下地情報と仕上げ情報を分けて入力しています。こうすることでBIMのフィルター機能を使って仕上げの種別ごとに色分けするとか、昔のようにわざわざ色塗りをする必要がなくなります。
図面の条件ごとにチェック図をたくさん作れます。こうした方法で設計時のエラーをなくすことができます。こうした方法で「I」を活用しています。

山下 土木では「BIM」という言葉はあまり使わないようですが、構造物や施設のモデルにはいろいろな情報が入力されています。建物が建つ敷地には道路や水道、ガス管などがつながっています。
3D設計のプラットフォームとして、建物を取り巻く地形やライフラインなどが、BIMモデルのようなもので構成されていると、風解析など様々なものに使えると思いますか?

森(博) 土木の場合は道路や電力、下水道などの様々な社会インフラをそれぞれの事業者が管理しています。統合されていないのが一番の問題です。
道路は「MICHIシステム」、下水道は各自治体のマッピングシステムなど、それぞれの事業者がそれぞれの方法で管理しています。電子データになっていればまだしも、紙ベースで管理していたり、更新がされていないために現状と合っていない古い情報だったりします。
私が「BIM」という言葉を使わず、「プラットフォーム」と言っているのはまず、その情報を統合することが、土木では最初の1歩と思うからです。社会インフラでは、全国統一の基準が必要です。
しかし、あまりがんじがらめの標準化を目指すと途中で挫折しそうです。個人的な考えだが、最低限のところだけは決めて、後はある程度、自由な部分があった方がうまくいくような気がします。

大規模プロジェクトで「バーチャル竣工」を実践

山下 竹中工務店の森さんは、「バーチャル竣工」、「BIMで製造」という言葉をよく使われますが、工場生産まで含めてプロジェクトの下流部分までBIMを適用できると思いますか?

森(元) 現場で部材がぶつかったときには、すぐに時間とお金と手戻りが発生するが、パソコンの中で「ここがぶつかってまずいな」といったことを事前にシミュレーションできれば合理的です。製造業では既にこのような方法が使われているでしょう。建設業でも「バーチャル竣工」による確認をもっと実践するべきだと思います。
藤記さんが「コア・アンド・シェル」、つまり外壁と躯体だけは変更が生じないように施主にも協力してもらえると、パソコンの中で事前に部材を組み立てて確認することがやりやすくなると思います。

山際 BIMソフトは以前に比べて進化し、ハードも64ビットマシンの登場などで、われわれのような小さな設計事務所でも様々なシミュレーションができるようになり、製造業的な設計手法も使えるようになりました。昔は1000万円の投資が必要だったが、今では100万円以下で同じことができます。

山下 北里大学病院の建物は9万m2もあります。これだけ大きな建物をBIMモデル化して扱うためのノウハウはあるのでしょうか。

株式会社竹中工務店 森 元一 氏 森(元) モデルを軽く作るノウハウは、BIMのコンサルタントから教わりました。その結果、建物全体を一つのファイルにしても問題なく動かせました。ただ、幅木や廻り縁などを3Dで入れ始めるときりがありません。
家具のように、総合図を作るときに2Dであっても問題ないものはあえて3D化しません。施主に見せる必要のあるときだけ3Dの家具を入れるというように、2Dと3Dを切り分けてモデル化しました。
BIMを使うとき、単なる作図ではなくデータベースとして活用することも重要です。どの部材がどこに何カ所あるかという集計を行ったり、山際さんが言ったように副産物として塗り分け図を自動作成して色塗りの手間を省力化できたりします。データベースとして利用するための属性情報を入れる価値はあります。

藤記 設計段階でBIMというプラットフォームの中に、意匠、構造、設備の情報を集めて「バーチャル竣工」によって施工段階での納まりを確認したり、森(博)さんが言ったように都市インフラで電気、ガス、下水のようにバラバラに管理されている情報を1カ所に集めたりすることで、製造業など、他職種を含めた情報の統合が可能になるでしょう。こうして無駄をなくすことが、BIMの最も強烈な可能性です。

山下 BIMは、単体の建物から都市全体をモデル化して管理する「スマートシティー」、さらには「バーチャルワールド」まで広がっていくかもしれません。実現は難しいかもしれないが、そこを目指すことは重要なのではないでしょうか。

森(博) コンピューターの処理速度や扱えるデータ量は年々、進化しています。大量のデータを扱えるかどうかという心配はほとんどしていません。今は、都市インフラなどのプラットフォームを実現するという考え方を持つことが重要です。

山際 建物の設計でも以前は情報が多くなりすぎないように気にしていましたが、最近は企画設計、基本設計、実施設計でモデルの情報量を変えています。さらに後に続く施工や維持管理のフェーズも考えて、情報を入力しています。

東日本大震災の復興計画におけるBIMの役割とは

山下 建物の中にいる人が、緊急時に避難したり、商業施設の中を動き回ったりする様子はシミュレーションできるようになっています。東日本大震災のような災害時にBIMはどう使えるでしょうか。

森(博) 例えば、被災地全体をプラットフォームとして考え、計画することで見た目にも分かりやすくなります。昔の街並みと、将来の街並みを比べて、ここに堤防を造るとか、ここに避難所を作るとかなどの合意形成を図る使い方もあります。情報を付加することでBIMモデルとしても使えるので、将来も役に立つでしょう。

株式会社日建設計 藤記 真 氏 藤記 これだけ広域な災害になると、一つの建物をスタンドアローンで考えることは現実的でありません。広域的な連携支援体制が必要です。災害に強いまちづくりをするためには、どこにどんなダメージを受けたのかをリアルタイムで把握することが必要です。下水道だけ、電力だけというバラバラな情報ではなく、これらが一元化され、電子化されていれば、他の地域からの復旧支援も迅速に行えます。
例えば雨水排水管に流量センサーを付けておき、リアルタイムで計測すると危ない個所が事前に分かります。街全体の状況を把握するユビキタス的なシステムと、プラットフォームとなるBIMの連携によって、強いまちづくりが実現する可能性を感じます。

森(元) 北里大学病院のプロジェクトでは、病室の壁あり、壁なしといった設計の比較を動画や3Dで施主に見てもらうことで理解を得られました。それと同じことが復興計画でも行えると思います。「こんなはずではなかった」という問題も少なくなるでしょう。

山際 被災地の復興計画では、見えないものを可視化することが重要だと思います。現実のデータをモニタリングして、それをモデル上で再現することで、後の災害に対しても予防策の検討などに使えると思います。

山下 復興計画は無から新しい都市をつくり出すものです。そこには無数のステークホルダーがいるため、合意形成は大変な作業になります。BIMは、復興計画ができたときにパブリックコメントをとるためにもいい道具になりそうです。

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