Autodesk Design Innovation Forum|2010 2010.6.1[火]9:00~18:00(受付8:30)ロイヤルパークホテル(東京・水天宮)

開催レポート

基調講演で登壇した工業デザイナーの奥山清行氏は、フェラーリの限定生産スポーツカーやチタン製メガネ、次世代のカプセルカーなどのデザインを通じて、大量生産で安いモノを作る「価格競争」から、人が欲しがる物を作る「価値競争」への変革を説いた。「ものづくり」から「ことづくり」への移行は、クルマや時計だけでなく、まちづくりでも同じだという。

人生を決めた15分 創造の1/10000 奥山 清行氏 工業デザイナー/KEN OKUYAMA DESIGN 代表

“15分間の勝負”に準備ができているか

私は1997年から98年にかけて、イタリア・フェラーリ社で限定生産スポーツカーのデザインを手がけた。7500万円のクルマの生産台数はわずか399台。「需要よりも1台少なく作る」という同社のポリシーを貫いたためだ。その中古車は現在でも1億3000万~1億5000万円しており、新車時の価格を上回っている。

フェラーリ社でデザインを担当した2年間は、混沌(こんとん)とした時期だった。つまらないデザインしか出てこず、いよいよ会長がヘリコプターで作業場に来る日も同じだった。案の定、モックアップを見た会長はダメ出しをした。ここでOKがもらえないと、2年間の作業はすべて無駄になり、自分の仕事も終わりだ。

そこで、私は最後の15分に決死の勝負をかけた。11時45分、会長にサンドイッチを食べてもらっている間に、私は机の引き出しから1枚の絵を取り出し、15分間でイラストを仕上げたのだ。このイラストが、限定生産車として実現することになった。

一生のうちに1度あるかないかのチャンスだった。そのために準備ができているのがプロ、できないのがアマチュアだ。一つのいいデザインを作るために、100通りのデザインを作れる人を100人集めて、合計1万点のデザインから一つを選べる仕組みを作れるのがプロなのである。

「価格」ではなく「価値」で競争するイタリアメーカー

大量生産が得意な日本人なら、「いくらなら最も多く売れて利益が最大化できるか」を考えるのに対し、フェラーリは発売前に顧客から集めた手付金で開発費を回収したうえで限定生産する。その結果、顧客にとっても投資価値が下がらない製品を提供できる。イタリアメーカーの強みは、「価格競争」ではなく「価値競争」にある。

「価値」へのこだわりは、クルマのデザインに使う材料にも現れる。クルマのデザインには通常、削ったり、盛ったりしやすい「クレイモデル」が一般的に使われる。しかし、イタリアでは「エポウッド」という堅い材料をノコギリやカンナ、サンドペーパーで削り出していくのだ。

固まるのに4時間もかかるので、クレイモデルのように「盛る」ことは難しい材料をわざわざ使う手法は、ルネサンス期以前の彫刻にさかのぼる。材料となる大理石には「石の目」がある。削っていくうちに石のひび割れによって指が欠けたりする。そこでアドリブで形を整えながら完成させていく過程で、材質に調和した形ができあがる。

一方、自由に盛ったり削ったりできるクレイモデルでデザインしたクルマは、どことなく粘土で作ったような不自然さが感じられるのだ。

フェラーリに学ぶ地場産業の復活戦略

フェラーリ社での経験は、自分の出身地である山形県の地場産業にも生かすことができた。山形には砂型を使った鋳物技術がある。砂で作った「中子」と呼ばれる型を鉄瓶などの内側に入れて鋳造し、後で中子を壊すことにより、金型では作れない中空の鋳物ができるのだ。地元ではこの技術をどう生かすかに悩んでいた。

そこで、私がデザインしたのは内側にホーローを施した茶瓶だ。ろうそくで温めるもので、海外のフレンチレストランなどでお茶やコーヒーを出すのに使われるようになった。また、間伐材から作った「ペレット」を燃料とする鋳物ストーブや、成形合板に和紙を挟んで強度を高めて作ったイスも開発した。テレビドラマの小道具としても使われている。

今の日本ではモノが売れなくなっている。以前はモノを買ったときから生活が始まった。しかし、今はモノはモノで終わってしまい、先がない。日本では買ってから何かが始まる商品が求められているのだ。

価格競争から価値競争に移行する鍵は、日本の地方都市にあるのかもしれない。日本文化を体現した「欲しくて仕方がなくなるような商品 を作る潜在力があるからだ。大量生産では作れない、地方都市独自の商品だ。民衆的工芸から「民芸」という言葉を作った柳宗悦氏は戦後の大量生産を反省して、新しい工芸運動を行った。現在の日本も、当時と似たような状況にある。そこで地方に根ざした新しいものづくりを行う「新民芸運動」を提唱したい。

ブランド商品に不可欠な「Experience Design」

「いいモノを安く作れば売れる」という時代は終わった。今はハード自体の性能よりも、顧客に「経験を与えられる製品」でなければ売れないのだ。つまり、「Experience Design」が重視されている。日本は大量生産か、一品生産には強い半面、100~1000程度の中途半端な生産数の分野に弱い。

例えば、金型は頑丈で壊れないものというのが常識だ。福井県鯖江市でチタンを鍛造してデザイン性の高いメガネフレームを作ったとき、金型がよく壊れた。高価な金型が壊れると、採算が合わない。そこで、職人が考え出したのは「5つ作れば壊れる金型」だった。「Experience Design」によるものづくりは、大量生産とは違った発想の転換も求められる。

クルマはかつては所有することがおしゃれなブランド商品だったが、現在ではだれもが持てるコモディティ商品化してしまった。すると大きな利益を得るのは素材と販売で、メーカーは利幅が小さくなる。ブランド商品とは全く逆なのだ。例えば、ブランド商品のメガネを1個売って得られる利益を得るのに、クルマの場合、手間暇かけて5台くらい売らなくてはならないこともある。

今後、自動車業界は10年間で「ものづくり」から「ことづくり」へと、ビジネスモデルの変革を迫られるだろう。クルマという「モノ」から、移動という「こと」をデザインする「Experience Design」が、成否の鍵となる。これからの自動車業界には、公共交通機関と個人所有車の中間的なサービス提供が求められることになる。

そのキーワードは「自動操縦」「オンデマンド」「プライバシー」「全体効率」「非所有社会」といったものだ。言い換えれば、クルマの「クラウドサービス」化である。また、クルマと建物を一体設計として、建物の外壁に沿って自宅まで上っていくようなカプセルカーのような発想も生まれる。クルマを屋外エレベーターや短距離コミューターとして使い、建物の外壁を駐車場として使うのだ。

「決断」を支援するシミュレーションとビジュアライゼーション

以前のように企業に多くの社員がいて、予算が潤沢にあった時代には、社内でいろいろな商品開発を行い、面白いモノがあれば商品化する、という手順が一般的だった。つまり、「決断」は一番後のステップにあった。いわば、多くの候補から選ぶ「狩猟型開発」である。

しかし、技術革新の早いこれからの時代、商品開発のための時間、予算、人が少ない状況では、ピンポイントで開発すべき商品を決める「農耕型開発へと変わっていくだろう。今のトップマネジメントには、どんな花が咲くのかを予測した上で、種を植えるのを決断することが求められている。そこが難しいところだ。

だからこそ、今はシミュレーションやビジュアライゼーションが重要になってくる。モノを作っているだけでは、その先にある暮らしぶりや街のあり方、インフラは見えてこない。モノを使ってどんな経験をお客に与えられるのかが見えないと、商品開発は生きてこない。重要なのは、ハートウエアデザインでなく「Experience Design」なのだ。

「夢のチェーンリアクション」こそ創造の原動力

1962年のジョン・F・ケネディ大統領の演説に感動した若者たちが航空宇宙局(NASA)に入り、69年には平均年齢28歳という若い組織がアポロ11号の月面着陸を成功させた。そのとき、テレビでサターン5型ロケットを見ていたイタリア人デザイナー、ポール・マーティンが設計した「モジュロー」というクルマが70年の大阪万博に出展された。

私は小学生のとき、そのクルマを見た。それがデザイナーを志すきっかけとなった。そして、実際にフェラーリの限定生産車や、ロータス車をベースにしたオリジナルカーをデザインすることになった。

今のものづくり、まちづくりに欠けているものはこうした「夢のチェーンリアクション(連鎖反応)」ではないか。人は市場理論だけでは動かない。創造するために夢を持ち、実現するために毎日、進んでいく。それが今、一番大事なことだと思う。

講演者の都合により、開催レポート、資料ダウンロード、動画配信などがない場合がございますので、予めご了承ください。

▲ページの先頭へ