Autodesk Design Innovation Forum|2010 2010.6.1[火]9:00~18:00(受付8:30)ロイヤルパークホテル(東京・水天宮)

開催レポート

C-1

【自動車業界最新お客様事例】
日産デザインにおける
デジタルデザインの活用と今後の展望

日産自動車株式会社
グローバル・デザイン本部 グローバル・デザイン・マネジメント部 部長 (兼) デザインリアライゼーション部 部長
國本 恒博 氏

製造トラックの1番目のセッションでは、日産自動車の國本氏を招聘し、自動車のデザイン工程、そしてそれを支えるデジタル・システムや、同社におけるグローバル規模の日産デザイン ネットワークの運用について紹介した。デジタル・ツールを適切な作業に利用することで、デザイン プロセス全体を短縮できるとともに、デザインの質を上げるための時間をより多く取れるようになるという。

國本氏によると、デザイン プロセスのデジタル化によって可能になること、また実現するべきことは、主に以下の三つだという。まず1つ目は、効率化による開発期間の短縮だ。デザイン案の作成や、設計業務とデザイン業務の連携を図るところが,デジタル・プロセスを最大限活用すべきところであり、また活用しやすいところでもあるという。2つ目は、デザイン品質の向上だ。デザインは設計、製造までを含めたすべての工程に影響をおよぼすため、品質の向上は重要になる。3つ目はクリエイティビティの向上である。新しい革新的なものを作り出すためにも、デジタル技術の活用は役に立つという。

デジタルの良い点を生かし尽くす

國本氏は、同社がデジタル化を進める中で分かってきたメリットとデメリットを、スケッチをもとにデジタル クリエイティブ ツール「Autodesk Alias」を使って車体やインテリアのデザインしていく工程を例に紹介した。
まず利点として挙げたのは,デジタルデータの場合、色や部分の変更が容易なので、多数のデザイン案を検討できること。これに対して、紙に描いたイラストだと点数が限られる。このほか最初からデータだと受け渡しも簡単だというのも大きなメリットである。さらに初期の段階でリアルかつ高精度のデザインをやりとりできるというのも重要な利点だと語った。以前はワイヤーフレームだったが、最近は素材や色も付与できるため、かなり実物に近い感覚でモデリングできるようになっている。
一方欠点は、デザインの検討過程が記録に残らないことだという。手で描いたスケッチは検討の経過が記録され、時系列で並べてみることもできる。しかしデジタルデータは上書きされていくため、途中の案が残らない。とくにマネジメントの立場から見ると、そのデザインに至るプロセスが分かりにくいという。「この経過の可視化は今後の課題となるでしょう」(國本氏)。
またデザインの最終確認まですべてをデジタルで行うことはないという。大きさや塊としての存在感、また面の表情といった繊細な要素は、実際のモデルを体感した方が直感的にすぐ分かるという。日産には「マイスター制度」という、社内における「匠」の技を継承するために作った制度があり、マイスターを中心とするクレイモデラーが、デザインを再現したモデルを作成する。「自動車はデザイン性と機能の両面があり、デジタルと実物それぞれの良い面を生かしつつうまく使うことが必要です」(國本氏)。

離れた拠点で同時にデザインを検討

國本氏は、デジタルデータをフル活用するべく導入している各種のツールについても紹介した。「Power Wall」(大型プロジェクションシステム)は壁一面のスクリーンに、自動車のデジタル モデルなどを実寸大でいろいろな方向から投影できるシステムだ。日産は現在、デザイン拠点を日本に2か所、イギリス、アメリカそれぞれに1か所ずつ設けており、日本の1ヵ所を除き、すべての拠点に導入されている。また2010年冬に開設予定の中国のデザイン拠点にも導入される予定だ。「Power Wall」により、テレビ会議などとともに、全拠点が同時に実寸大のモデルを見たり、その画面にホワイトボードのように情報を書き込んだりしながら検討することができる。また硬質発泡モデルの制作もデジタル化の利点を十分に生かした例だ。設計データを切削機械に送れば、硬質発泡素材を切削し、モデルが一晩のうちに自動で成される。データ作成と立体モデル作成のサイクルをより短期間で回すことに貢献している。さらに2009年10月に発表した電気自動車の「Land Glider」は、車体幅が1.1mという必要最小限の大きさや、車体がコーナーで傾く機能などをもったユニークなコンセプトカーだが、デザインのコンセプトを練る初期段階からCGムービーを作成して、傾きや屋外での走行の見え方などを確認していたという。また、VR(Virtual Reality)ツールを活用した、外観や自動車内部の立体視といったことにも取り組んでいる。
デジタル化の効果については、確実に開発期間を短縮し、開発費も削減されたという。「その分、初期のデザインのアイデアを練る時間や、品質を作り込む時間を多く取れるようになりました」(國本氏)。
最後に今後の課題についても説明した。まず、さらなる効率化と品質の向上だ。中国やインド、ブラジルなどの新興国が台頭しており、これらは変化のスピードが早い。その変化のスピードに対応していくために、今後は品質を作りこみながらモデル開発期間をいかに短縮していくかが課題になるだろうと指摘した。また、よりリアルなCGの作成も追求する考えだ。これらに加えてデジタル・モデルと実物モデルを導入する際の最適なバランスを追求していきたいという。「新興国や先進国、また自動車のジャンルによって、適切なプロセスは異なってきます。このベストバランスを追求していきたいですね」(國本氏)。

C-2

強い設計力が『売れる製品』を導く

モデレータ:
日経ものづくり 編集 編集委員
木崎 健太郎 氏

パネラー:
日本電子株式会社
財務本部 技術システム部 専任次長
近藤 隆史 氏
パナソニック株式会社 ホームアプライアンス社
エアコンビジネスユニット デバイス開発グループ 主任技師
福田 昭徳 氏
三菱自動車工業株式会社
生産技術本部 上級エキスパート
勝丸 眞司 氏

売れる商品を作るには、強い設計力。すなわち商品に魅力的な特徴を盛り込みながら、最短期間で作り上げる力が必要だ。設計力を上げる方法としては3次元CADモデルを利用した解析やデザインレビューによるフロントローディングが有効だ。うまくツールを活用できなければ十分に効果を得られない可能性もある。2本目のセッションとして開催された「強い設計力が『売れる商品』を導く」というテーマでパネルディスカッションを行った。パネラーには三菱自動車工業生産技術本部 上級エキスパートの勝丸眞司氏、日本電子財務本部技術システム部専任次長の近藤隆史氏、パナソニック ホームアプライアンス社 エアコンビジネスユニット デバイス開発グループ 主任技師の福田昭徳氏に参加いただき、日経ものづくり編集委員の木崎 健太郎氏がモデレータを務め、3次元CAD導入によるフロントローディング設計の現状と課題について議論した。

本セッションの冒頭で、まずそれぞれのパネラーが、企画から製造までにおける仕事の進め方を紹介しながら、製品を開発するうえで十分な検討が必要なポイントがどこにあるのかという点を説明した。
三菱自動車工業 生産技術本部 上級エキスパートの勝丸眞司氏は、製品、つまり自動車を設計する際に、まず市場のニーズやトレンドをグローバル規模で調査し、徹底的に情報を集めて整理するという。このときにデザインだけでなくさまざまな規制も重要な検討項目だと語った。たとえば衝突の際の安全基準などである。規制は厳しくなっていく傾向なので、2年から4年程度先の規制の動きを見越して、さまざまな検討を行う必要がある。こうした検討を一段と効果的に進めるうえで、3次元CADが役に立っているという。例えば、設計の初期段階で、CGを使って経営陣や販売店に商品の外観を見せられるようになったことで、販売店や経営陣など開発部門以外を巻き込んだ検討が従来よりも前倒しで実施できるようになった。これによって、設計変更の頻度がぐっと減ったという。

続いてパナソニック ホームアプライアンス社 エアコンビジネスユニット デバイス開発グループ 主任技師の福田昭徳氏が、いわゆる白物家電を手掛ける同社の状況について語った。同社の場合、現在の商品開発について特に重要なポイントは商品力とコストであり、 まず新商品に必要な材料の種類や量を明確化しコストを算出する。 商品力はそのコストを踏まえて経営戦略の視点から厳しく評価・判断される。 新設計の際、品質と材料費の最適化を図ることが重要であり、その 有効な手段の一つとしてパラメトリック解析等を用いるという。
この後に発言したのは、電子顕微鏡や分析機器を製作している日本電子の財務本部技術システム部専任次長の近藤隆史氏である。同社の製品の場合、検査・分析の対象が極めて小さいうえに、検査のために測定部に真空の環境を用意する必要がある。このため、装置を組み立てる際には、非常に高い精度を求められる。したがって解析ツールだけで、品質を十分に作り込めるということはないという。実際には、職人ともいえる熟練した技術者が、各部品を磨いて組み合わせ、一台ずつ仕上げる。しかも、検出器などさまざまな周辺装置がユーザーによって異なるため、取り付けるときの重量バランスや磁場、電場の影響を考え併せて、1台ごとに試行錯誤しながら製品を組み立てているという。

設計作業手順の標準化の効果を検証

続いて議論したテーマは、設計の効率化に向けた設計業務の標準化についてである。設計の効率化を進めるために、設計業務の手順を明確に規定すべきという考え方がある。これは実際にどの程度実践できるのかについて、それぞれが意見を述べた。
勝丸氏によると、自動車の設計においては、二律背反の条件を要求されることが多いという。例えば重量はなるべく小さく、室内空間は広くしたいといったことだ。こうした問題に関する、チェック項目を詳細に決めることは難しい。それよりは、解は最低限の簡単なものに留め、みなで情報を共有してどう判断するかに重きを置いた方がよいと答えた。
福田氏の場合は、たとえばエアコンであれば30年もの製造実績があり、すでに詳細な手順書と設計ノウハウの塊である膨大なチェックリストが揃っているという。設計者一人が担当する領域について、リストに挙がった項目のすべてをチェックする。海外生産で安く品質の高い製品を作ろうとした場合に、非常に有効な手法だという。その一方で、リストに頼ってしまうと、想定外のことを考え柔軟に対応する能力が養われないという問題を同氏は指摘した。設計者の能力を向上させるためには、整理された手順書ばかりに頼るのは問題があるという。
近藤氏の職場では、設計者に対して細かくルールを決めたこともあったという。「ところが、帳票の作成に時間が掛かりすぎるという問題が発生しました。中には設計よりもチェック作業に力が入ってしまうなど本末転倒なケースさえ発生する部門も出てきました」(近藤氏)。このため現在はあまり細かく決める必要はないのではないかという流れになりつつあるという。現場によって、設計業務を規定しているところと、そうでないところがあるといった状態だという。

フロントローディングは手戻り削減を実現できるか

最後に、フロントローディングは実際に手戻りを削減できるか、という問題についてそれぞれが考えを語った。近藤氏は、できるかできないかというより、しなければならない状態だと述べた。フロントローディングを実施して手戻りが減らせるという理由で3次元CADを導入しているからだ。ただ同社では、図面を出図してから製品が出来上がるまでがかなり長いため、その合間に不具合をデジタル・モックアップによって洗い出すなど、設計段階だけでなく全体的に3次元データを活用することで、手戻りを減らしていきたいと語った。
福田氏は、白物家電は競争が激しいので、ライバル社の新製品に対応するために、商品企画から修正する場合もあり、しかも開発期間が短いことから、設計におけるフロントローディングを進めることが、なかなか難しいのが現状だと述べた。ただ、デザインレビューはとても重要なポイントだと強調した。今後は解析結果についてもベテラン設計者がしっかりチェック、指導を行える手法を構築することで手戻りは削減可能ではないかという。
勝丸氏は、手戻りの削減は可能だと答えた。自動車業界では3次元CADを導入してから、確実に手戻りが減っているという。もし減らないとすれば、デザインレビューが適切な人選でないなど、根本的な問題があるはずだと語った。「いまや、3次元CADやCAEツールがなくては自動車開発ができないところまで来ている」とも勝丸氏は述べている。

C-3

セイコーエプソンにおける、
フロントローディングの実現と設計力の向上

オートデスク株式会社
メジャーアカウント
テクニカル アカウント マネージャー、製造
梅山 隆

セイコーエプソンは、製品サイクルの短期化に追随しながら、高い市場競争力を備えた製品を市場に投入するために、樹脂流動解析ツール「Autodesk Moldflow」を使って設計者自身が解析を実施する体制を構築。これによって、製造段階で判明する成形不具合の件数を大幅に減らした。「セイコーエプソンにおける、フロントローディングの実現と設計力の向上」と題した講演では、こうした同社の取り組みをオートデスクより紹介した。

セイコーエプソンは、カラープリンターをはじめ数多くの情報関連機器を手掛けている。その多くには、独自に開発した最先端の技術を積極的に採り入れてきた。例えば、インクジェット方式のプリンターに採用している「マイクロピエゾテクノロジー」である。ピエゾ(圧電)素子に電流を流すことで素子を変形させ、機械的な圧力でインクを吐出する。液滴のサイズや吐出する位置を精密に制御できるのが特徴だ。従来のサーマル方式のようにインクを加熱する必要がないため、インクの選択肢が増やせるなど多くに利点をもたらす。しかも、この技術はプリンターにとどまらず、液晶のカラーフィルターの製造などプリンターブル・エレクトロニクスへの展開も期待されている。

設計者による解析を実行

こうした最先端の技術は市場における製品の差異化を図るうえで重要だ。実際に、すでにセイコーエプソンは、マイクロピエゾテクノロジーを搭載した製品を毎年市場に送り出している。だが、市場における製品サイクルの短期化が加速していることから、最新技術を反映した製品をタイムリかつ適切なコストで市場に投入することが、次第に難しくなっているという。
しかも実際に同社の開発現場では、製品サイクルの短期化にともなって、成形不良等の製品品質にかかわる問題が多くなってきた。部品の成形性に関する検討を十分に行う時間の余裕がなくなるにつれて、金型制作や量産の段階で設計変更が必要になるケースが増えてきたという。だが、後工程になるほど変更できる範囲は少なくなることから、根本的な対策の実施は難しくなる。このため開発期間の短縮を進めるにつれて、予想もしなかったトラブルによる作業の遅れなどが発生するようになってしまい、もはや、手をこまねいて見ているわけにはいかなくなってきた。
そこで、設計者自身が樹脂流動解析を実施することによって開発の初期段階から成形性を考慮した品質向上を図るフロントローディング設計を導入しようという声が社内で高まった。できるだけ前工程で品質をつくりこめば、後工程での無駄な変更がなくなり、納期短縮やコストダウンにつながる。しかも、各部品の設計意図を知っている設計者が、自ら樹脂流動解析を実施して、部品の最適化を図れば効率よく品質の向上を図れるうえに、仮想の成形を設計者自身が経験することで技術者としての成長にもつながる。
そこで、同社の機器情報化推進部が中心となってフロントローディング設計の導入に向けた取り組みが始まった。2007年のことだ。このとき樹脂流動解析ツールに「Autodesk Moldflow Adviser(AMA)」を採用した。解析専任者でなくとも使いやすいように作業が簡略化できること、樹脂材料のデータベースが充実していること、不具合を予測するとともにその対処法をアドバイスする機能が充実していたことが、同ツールを選んだ理由だ。
同社は、設計者自身による解析実施に際して、二つのルールを決めた。第1に、すべての部品について解析を行うこと。第2に、すべての部品について、ゲート位置まで設計者が記載し、設計意図を明示して出図するということだ。こうした取り組みを一気に立ち上げるために、事前に設計者全員に解析ツールの使い方や、解析結果の活用方法などの教育を行った。またそれぞれの設計者の解析結果のレビュー内容について、設計者間の情報共有の為のミーティングも何度か行ったという。

解析結果を実物と比較して検証

こうした取り組みの実例の一つとして、2008年に発表した複合機「EP-901F/A、EP-801A」に搭載した外装部品の解析事例を紹介した。この部品は黒い樹脂部品だが、塗装レスで表面を鏡面に仕上げるという高度な成形技術が必要だった。
今回紹介した解析事例の一つは、複合機の側面を構成する比較的大きなカバーで、細かい多数の冷却孔と、メディアカードなどを出し入れする大きな穴が一つある複雑な形状を備えている。このため成形不良のウェルドラインが問題になりやすい。この事例では、ウェルドラインが発生する場所を表から見えないところに追い込むために、AMAを使った検討を繰り返して、ゲート位置や、部品の肉厚を決定した。
このようにAMAを使って設計者による解析を実施した結果、成形段階で判明する成形不良の大半は、事前に洗い出せることが分かったという。しかも、そのうち90%は設計に起因する不具合であることも分かった。さらに量産品の出来具合と解析結果の突き合わせ検証の結果、実機と解析結果との整合性が高いことも確認できた。「設計者自身による解析活用の導入によって、フロントローディングを効果的に実現することができます。また、解析ツールを導入するだけでなく、解析結果の活用方法などを事前に勉強し、サポート体勢を十分に整えればフロントローディングはより効率よく実現できるでしょう」(梅山)。

C-4

Better by Design
デザイン:発想とモノづくりをツナグ力
ユニークな価値の創造による企業活性化事例

有限会社znug design(ツナグデザイン) 社長
根津 孝太 氏
原田車両設計 代表取締役
原田 久光氏

「Better by Design デザイン:発想とモノづくりをツナグ力 ユニークな価値の創造による企業活性化事例」と題した4本目の講演では、有限会社znug design(ツナグデザイン) 社長の根津孝太氏と原田車両設計 代表取締役の原田久光氏が登壇。デザイン事務所と自動車関連の試作会社による異色のコラボレーションによって生まれたデザイン性の高い照明器具「カラクリトウロウ」を作り出した経緯とともに、工業デザインにおけるデザイン・ツールの役割について語った。

znug designは、自動車や家具といった工業デザインを手掛けるデザイン事務所である。社長の根津氏は、かつてトヨタ自動車に在籍。愛・地球博で発表された一人乗りの電気自動車「i-unit」のコンセプト開発リーダーなどを務めた。その後、同デザイン事務所を立ち上げ、2008年に保温タンブラー「THERMOS JMY」でグッドデザイン賞を受賞、海外でもドイツiFデザイン賞を受けるなど、国内外で高い評価を受ける仕事を数多く手掛けている。
一方、原田車両設計は、自動車のワイヤハーネスや、内外装向け樹脂部品など自動車関連を中心とした試作品の制作を請け負う企業だ。カラクリトウロウの作成に使われた「粉体造形機」は同社の設備である。粉体造形機は、3次元の立体物を作成する装置である。試作品の制作に使われており、車のインテリア部品など可動部位も含む大きなものも作成する。作成する立体物の素材になるのがナイロンの粉末。これを平面に薄く敷き詰め、レーザーで必要な場所のみ焼き固める。これを何層も繰り返して重ねてゆき、最後に固まっていない部分の粉末を払い落すと、所望の形状の立体物が出来上がる。

企業の技術とデザイナーがユニークな製品を完成

2009年に両社が共同で開発した「カラクリトウロウ」は、中心に球形の明かりがあり、球形に沿って作られた外枠がモーターによって回転するものだ。枠に梅の花をモチーフにした歯車の機構が複数ついており、球形の枠が回転するとともに、明かりの表面上を梅の花が連動して回転する仕掛けだ。この灯篭の外枠の部分に粉体造形技術が使われている。これらの機構は、作成方法の特性上、組み立てる必要が全くない。かみ合った歯車それぞれは粉体造形によって最初から作り込まれたものだからだ。展示会に出展した際は、継ぎ目のない同製品を興味深く見る人が後を絶たなかったという。

この製品が生まれるきっかけは、原田車両設計が従来とは違った仕事に取り組んで社内に新風を吹き込もうと、根津氏にとあるプロジェクトのデザインを依頼したことにはじまる。2008年の世界同時不況のあおりから、自動車産業の比率の高かった同社は大きな打撃を受けた。売り上げを復活させる明るい材料はないかと考えていたときに思いついたのが、デザイナーとのコラボレーションだったという。そこで以前から、仕事で関わりのあった根津氏に相談。一方、根津氏は、原田車両設計の粉体造形機を使って作った“組み立てた跡がない歯車のノベルティ”を見て、この依頼を引き受けたという。こうして、組み立て部分がなくても動くという面白さを前面に出したカラクリトウロウが出来上がったわけだ。

根津氏が作成したデザイン形状データをもとに、原田車両設計が設計を手掛けた。同社は、粉体造形物をモーターで動かした経験がなかった。しかも、組み込む電気回路にも馴染みはなかった。だが、電子回路に詳しい社員が率先して電気回路の開発を請け負うなど、会社のメンバーが自分のできることを生かして作業を進めた。「このおかげで、トラブルも特になく、スムーズに製品を完成させることができました」(原田氏)。

デジタルツールがデザインに与える新しい可能性

根津氏は講演の中で、自分自身のデジタルツールの活用状況についても語った。同氏は、「Autodesk Alias」や「Autodesk Showcase」をはじめ、最近になって「AutoCAD Inventor LT Suite」も使い始めたという。普段の使い方としては、ペンでラフに描いたデザインを、すぐにAliasで描き起こす。すばやく高品質なデザイン画を描くことができるうえに、デジタル化によって後工程にスムーズにデザイン情報を受け渡すことができる。
さまざまな色を簡単に試すこともできるため、THERMOS JMYではさまざまなバリエーションをAliasで比較したという。また展示会のブースはAliasで描いたイメージをもとに作ってもらうなど、コミュニケーションツールとしても役立っている。ほかにも、太陽の動きを取り入れたユニークな製品を開発した際には、太陽の軌道を計算するのに利用。バランスを取る必要がある製品では、重心の計算にAliasを利用した。「Aliasなどを使用すると、素早く高精度でリアルな映像が作れます。イメージが伝わりやすいのはもちろん、デザインの魅力を伝える際の説得力が断然高まり、協業者のモチベーションアップに繋がります」(根津氏)。

新しいチャレンジが会社の結束を強めた

原田氏はデザインを依頼した当時について、「中小企業がデザイナーにアプローチするのは、あまりないことであり、思い切った行動でした」と振り返る。世界同時不況で売り上げが落ちていく中、原田車両設計では先行きを心配する雰囲気が漂っていた。ところが、目新しい課題に取り組んだことをキッカケに、会社内の雰囲気はガラリと変わったという。「今回のチャレンジによって、より社内の結束が強まりました。また、原田車両が家具へ新規参入したことで、メディアにも取り上げられ、新しいビジネスや引き合いが増えるようになりました」(原田氏)。
一方、根津氏も、「原田車両設計と協力することによって、デザイナー一人ではできない様々な経験をさせてもらいました。このように、さまざまな分野の人が協力し合うことでシナジーを起こし、日本のものづくりを盛り上げていきたいですね」と語っている。

本セッション内で紹介された「カラクリトウロウ」はテレビ東京系列 WBS(ワールドビジネスサテライト)「トレンドたまご」でも紹介されている。

講演者の都合により、開催レポート、資料ダウンロード、動画配信などがない場合がございますので、予めご了承ください。

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